研究概要 |
カブトガニではトロポミオシンisoformの組織特異性がみられずisoformの数も脊椎動物と比べて少ないことがわかっている. カブトガニにおけるこの状況が一般に脊椎動物にあてはまるか否かを知るために甲殻類のトロポミオシンisoformの不均一性を調べた. アメリカザリガニ,イシダタミヤドカリ,ベニツケガニを用い,その中でアメリカザリガニの骨格筋からトロポミオシンを精製し,これに対する抗血清を調製した. 上記甲殻類各種から骨格筋心臓腸,中腸腺,触角腺を分離し,2次元電気泳動法でその構成タンパク質を分分離・展開してimmunoreplica法によってトロポミオシンを同定した. その結果甲殻類各種のトロポミオシンisoformには, 特に骨格筋,心臓,中腸腺の間で分子量が異なるものが存在することがわかった. 更に通常の4倍近くの時間をかけて電気泳動を行い,タンパク質を徹底的に分離すると,同じ種の筋肉の間,例えばアメリカザリガニのはさみの筋肉と腹部の筋肉の間でさえisoformの分布に相違があることがわかった. 従って甲殻類での結果はカブトガニの場合と異なりトロポミオシンisoformに組織特異性が存在することが理論づけられた. Isoformの数はカブトガニと同様に脊椎動物のそれよりも少ないようにみられたが,アメリカザリガニのトロポミオシンに対する抗体は中腸腺のような非筋肉組織では,低分子量成分と反応した. もしこれらがトロポミオシンisoformであるとすれば,甲殻類におけるisoformの数はかなり多いことになる. 以上のように甲殻類ではトロポミオシンisoformの組織特異性が観察されたが,なお種間で統一性がみられなかった. 例えばベニツケガニでははさみの基部の屈筋と伸筋でisoformが異なってみえたのに対し,その他の種ではこれがみられなかった. このことはトロポミオシンisoformの分布とこれを含む組織の機能の関係が非常に複雑であることを示していると思われる.
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