植物細胞・組織の超低温における生存機構を明らかにするために、本年度は種々の植物のプロトプラスト・培養細胞を用いて、それらの耐凍性を比較した。このうち、プロトプラストの細胞壁・分裂の制御条件が十分に明らかになったゼニゴケでは、特に詳細に検討を行った。その結果、培養によって細胞壁の再生過程にあるプロトプラスト(再生細胞)の耐凍性が、分離直後のプロトプラストや培養細胞のそれに比べ著しく高いことが明らかになった。すなわち、プロトプラスト・培養細胞を液体培地に懸濁して凍結したところ、50%生存率を示す温度(【LT_(50)】)は、分離直後のプロトプラストで-8℃付近に、18時間培養の再生細胞で-50℃以下に、48時間培養の細胞で-20℃付近にあった。これらプロトプラスト・再生細胞は、凍害防御剤の処理によってさらに高い耐凍性を示した。また、最も耐凍性の高い18時間培養の再生細胞では、-30℃まで予備凍結後、液体窒素温度(-196℃)までの急速冷却で約40%が生存し、その後正常に増殖・再分化することが明らかになった。プロトプラストの培養による耐凍性の増大は、細胞壁の再生が起きるが細胞分裂が起きない培養条件でも同様にみられること、また、再生細胞を再度酵素処理し、細胞壁を除去したところ、耐凍性が著しく低下したことから、この耐凍性の増大は、プロトプラストの分裂周期よりも、むしろ細胞壁の再生に関連していることが示唆された。このことをさらに明らかにするために、各種の阻害剤による詳細な検討を行った。また、このプロトプラスト・再生細胞の間での耐凍性の差を形態的に明らかにするために、冷凍顕微鏡を用いて、これらの凍結像を観察した。その結果、プロトプラストと再性細胞で凍結像の明らかな差異が認められ、特に細胞膜の水に対する透過性が異なっていることが示唆された。
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