本研究は、従来の心理学研究に欠けていた直接観察法による行動観察を重視し、この方法がこれまでの実験室研究にも充分適用できること、むしろ、すべての心理学研究にとって必要ですらあるとの観点から行われてきた、我々の一連の研究の中の一つである。 逃避回避学習の成績は近交系間で大きな差異があることが判っているが、これは観察の結果からみると、すぐさま記憶や学習能力といった心理過程の差異に結びつけて考えることは誤りに近いことが示唆された。(堤・牧野1986)。特に逃避回避場面における系統間で異なる電撃に対する対処活動の形態が大きな役割を果すことが考えられた。たとえば、C57BL/6は、電撃呈示時にあたりを走りまわるという、いわば水平面での活動型が圧倒的に多く、それに対し、C3H/Heはジャンプや立ち上がりなど、垂直面での活動が多くみられた。そこで実験1では、シャトル箱のグリッド床上7cmに赤外線ビームを張り、隣室への移動と共に立ち上りやジャンプによっても逃避回避ができるような2選択型の態動的回避学習をこの2系統に行わせた。その結果、C57BL/6は全員が水平型の移動によって電撃を回避したのに対し、C3H/Heは、移動によるものと垂直型の活動によるものとに分かれた。しかし、この系統では両活動を合わせるとC57BL/6と同程度の学習の成立がみられたのである。次に実験2-1では、逃避不可能電撃に対して近交系マウスがどのような対処活動をするかを直接観察した。その結果、やはりC57BL/6は水平面での活動が圧倒的に多く、C3H/Heでは、水平と垂直面での活動が混在することが確認された。実験2-2では、今度は垂直面での活動による回避学習を4系統に課した。その結果、C3H/Heの方がC57BL/6よりも成績が良いことが明らかになった。 以上の結果は、「反応」側の問題を重視すべきであるという我々の見方を大きく支持するものとなっている。
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