他者接近に伴う生理、行動、認知過程についての基礎的研究を行った結果、次のような知見を得た。 1.パーソナルスペースに、民族に対する心理的距離が反映されることが明らかになった。ただし、実験の手続の違いにより反映されないこともあるが、質問紙で測定した社会的距離と、行動として反映した距離の間には、有意な相関が得られていることから、パーソナルスペースを測定することで、民族に対する心理的距離を測定することが可能であることが明らかになった。 2.刺激対象として、実際の人物とパネル写真の場合を、行動的、生理的、認知的側面から比較検討した結果、主観的な認知反応のレベルでは違いが見られたが、その他の測度では差が見られなかった。従って、パネル写真を実際の人物の代用として使えるという新しい知見が得られた。 3.特定の民族に対しては、行動的・認知的測度に関しては差が見られなかったが、生理的測度、とりわけ心拍は差が見出された。すなわち、偏見をもった民族に対しては、心拍が有意に高くなることが見出された。 4.他者接近の距離の関数として、緊張が増大することが生理的測度ならびに認知的測度の両面において明らかになった。また、そのピークは、認知的にはパーソナルスペースの境界点付近であったが、生理的には境界点付近より以前に存在することが見出された。 以上のような知見に基づき、民族間の心理的距離を投影法的手法に基づき測定するところの国民的距離地図(NDM)を開発し、その妥当性を明らかにした。加えて研究成果報告書の作成を行った。
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