【I】痒みの実験心理学的研究 われわれは61年度と62年度の2年間において、痒みの生起過程とそのメカニズムを解明するために、主として、痒みと温度の関係ならびに痒みと身体部位に関する実験心理学的研究を行なった。その結果、つぎのような新しい知見が得られた。すなわち、痒みは、温度と血流量と密接な関係にあること、ことに痒みの強い部位は対照部位に比べて温度が高く、血流量も大きいことが明らかとなった。また、もう一つの発見は、痒みの強度は、身体部位によって相違があり、それは触二点弁別閾の大小と関係があることを示した。すなわち、触二点弁別閾が相対的に大きい上腕内側部と下腿前頸部において強い痒みが生じ、触二点弁別閾が小さい中指先端部においては弱い痒みが生じたのである。このことから痒みが、触覚あるいは圧覚の受容器と何らかの関係があるのではないかと推論することができる。 【II】痒みの臨床心理学的研究 痒みがパーソナリティおよび、body image(身体像)におよぼす効果について2年間にわたり詳細な実験臨床心理学的研究を行なってきた。その結果、きわめて興味ある多くの知見をうることができた。その主なことを列挙する。(1)アトピー性皮膚炎患者を対象にロールシャッハ・テストを施行したところ、彼らのパーソナリティは抑圧的で、感情の欠如の傾向がみられた。また、児童は母親との人間関係に屈折したものが見られた。またFisher & Cleveland(1958)のBody-Image Boundary得点を中心に分析したところ、障壁反応(barrier responses)および貫通反応(penetration of baundary responses)が対照群に比べて多くあらわれたのである。このことは、痒みが患者に弱々しい身体像をもたらしめることと、身体像が痒みによる行動変容の測度となることを示唆した。
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