研究概要 |
本研究の目的は、日本の近代化過程を、産業化の観点からの統一的に捉えた後、実証データにもとづいて解明することにあった。まず戦後40有余年を経て一応の近代化を達成した今日、日本社会は転機を迎え新しい社会編成原理が要請されていることが明らかになった。つぎに日本の近代化過程の実証的分析に関しては、データの入手可能性の制約のため、時代を戦後日本社会に限定し、領域も社会階層に限定して、階層構造の変動過程の分析を行なった。用いたデータは「社会階層と社会移動(通称SSM)」全国調査3時点(1955年,1965年,1975年)データである。昭和60年度には、地位の非一貫性(Status in coneistlncy)に関して分析を行ない、(1)1955年から1975年までの20年間に地位の非一貫性が増大したこと、(2)地位非一貫性の増大は下層一貫の人びとの生活水準の上昇によって可能になったこと、(3)地位非一貫性が欲求不満やストレスをひきおこし、革新的な政治態度と結びつきやすいというレンスキー(Lenski,G.)の仮説は、日本社会にはあてはまらないこと、が明らかになった。昭和61年度には階層帰属意識に関してすう勢分析を行ない、(1)1955年から1975年までの20年間に「中」に帰属させる人の割合が増大したこと、(2)階層帰属意識が社会的地位によって規定される度合が小さくなったこと、が明らかになった。戦後日本社会の変動を社会階層論の観点から概括するならば、戦後の日本社会が未曽有の平等社会を実現したということになるのである。ところで、一般に価値としての平等主義は、同質化規範と差異化規範という相対立する規範を内臓している。したがって、これら2つの規範のどちらが社会の中心的な編成原理になるかによって、成熟を迎えた日本型中流社会の今後の変貌を見すえることも可能になるであろう。
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