大阪市内の校区に同和地区を有する小学校の一つの学年全員を昭和56年の入学当初から6年間追跡してきた。第3学年までの結果は以前に報告(科研課題番号57510112)したので、今回は第4学年から第6学年の結果と、6年間の総活を報告する。この研究の依拠する「話しことば文化・書きことば文化」の仮説については、前記報告書や、この研究の計画調書や実績報告書で述べているので、ここでは触れない。前に述べたように、第2学年から第3学年にかけての地区児の「伸び率」が鈍化したことなどから、いわゆる「9才の壁」出現の可能性を疑ったが、第4学年以降の結果をこれまでと同様な方法でまとめた限りでは(つまり、地区・地区外児の各課題毎の平均得点をとって比較した限りでは)、第4学年以降格差が拡大するということはなかった。ところが、6年間の結果を総括する過程で、相関分析を試みた結果、第3学年と第4学年の間で学力構造が大きく変わることがわかった。つまり課題間の相関係数が、第3学年までは地区の方に高いものが多く、第4学年以降この関係が逆転する。各課題はそれぞれ言語能力といわれるものの一定の側面を荷っており、全体としては統合的なものである。ゆえに、このことは、第3学年までは地区児の学力構造の方がより統合的であること、第4学年以降はこの逆になることを示している。(同時に算出した注意係数も同様の方向を示している。)この時期は、国語科を含む各教科の内容が日常生活的な具象性の高いものから、より抽象性の高いものへと変化する時期である。また「書きことばの本格的獲得の時期」とも言われ、抽象的思考のはじまる時期でもある。表面的に得点を比較した限りでは特に目立った変化は見えなくても、学力構造の内部に起ったこの変化が、現在では中学校で見られる格差拡大の原因ではなかろうかと推測される。「9才の壁」はやはり存在したし、仮説も一層追求される価値ありと考える。
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