研究概要 |
縄文時代の中部地方における植物質食料の実態を明らかにし、近畿地方のそれと比較することを目的にした。そのため、従来は植物遺体がほとんど残らないとされていたローム土壌地帯で、種類同定が可能な形で、どのようにして遺跡から植物遺体を発掘するかが第1の課題となった。また、出土した植物遺体がどのような遺構に伴うかを知るため、出土した位置を正確に記録し、それを表現するかを考えた。その結果は以下の通りである。 1.八ヶ岳南麓の山梨県北巨摩郡高根町東井出に所在する野添遺跡において発掘調査を行ない、縄文中期勝坂【III】式の竪穴住居跡を1棟、曽利【II】式のもの1棟、曽利【III】式のもの2棟のほか、多数の土坑を検出した。 2.土器,石器類,炭化物などの出土位置と属状とを、すべてマイクロコンピュータに記録して、各種類のドットマップを作成し、遺構ごとの遺物分布の違いを可視的に表現することができるようになった。 3.竪穴住居跡内では土1lあたり、平均2【cm^2】の炭化物が含まれており、その垂直分布では、竪穴住居跡の覆土最上部と床面直上に多くみられた。 4.実測して取り上げた炭化物は3497点で、そのうち材が2434点と最も多く、クリ,クルミ,ハシバミ,ドングリなどのナッツ類は766点であり、ほかに多孔質の炭化物や粒状の変化物がある。 5.住居跡や土坑にはクリとクルムなど特定の集中が認められるものがある。 6.八ヶ岳南麓において、縄文人の利用したナッツ類ではクリとクルミが重要であり、近畿地方とは、種類の違い、種類数が少ない点で大きく異なる。 7.植物遺体の採集法として、位置記録法と定量彩取法があり)、前者は遺構への特定種類の集中を表現するのに有効であり、後者は種類の量比を調べて、植物利用の実態を知ることができる。
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