研究概要 |
昭和60年度における研究を継続・発展させると共に、新たに京都国立博物館・龍谷大学図書館等において諸文献の字音を調査し、前年度の研究成果と合わせて、その一部を「日本呉音の"核母音"」(筑波大学『文芸言語研究』言語篇1986)に発表した。その要点は次の如くである。 1 日本漢字音は、従来認められてきたような、単なる中国字音の投影にすぎない存在ではなく、日本語音による解釈によって成立した諸類型(patterns)の相関の上に成り立っているという一面を有している。 2 このような観点から日本呉音を考察すると、概略的に中国字音の介母及び主母音を反映する、日本呉音の第一拍目の母音(これを"核母音"と仮称する)に関して、次のような諸点が明らかになり、また、本研究のような方法は、今後の日本字音史研究にとっても有効であることが確認される。 (1) 韻尾との関係に着目すよと、(1)核母音から見て、-ng'〜-k,と-ng〜-kが類似した行動をとり、-m〜-pと-n〜-tも行動を等しくする。(2)無韻尾及び陰類の諸摂に関しては、外転の-Oが-ng'〜-k',-ng〜-kと似た行動をとり、-uが-m〜-p,-n〜-tと似た行動を示すのに対して、内転の-iは-m〜-p,-n〜-tと同様の行動を示し、同じく-Oと-uが近似したあり方を示す、といった点が明確になる。こうした点でも蟹摂の現れ方は特殊である。 (2) このような見方は、従来の方法では説明が困難な、曽摂入声の-iki型、遇摂の-iu型等に関して、例えば、前者は通摂入声の-iku型との相関において存在する型であり、後者も流摂・通摂の-iu型・-i【u!〜】型に誘引されて成立した型である可能性が強い、といった解釈を可能にする。 本研究のようなな立場からの細部的事実の解釈や漢音系字音の分析が今後の課題であり、それらをふまえた綜合的研究の成果は、将来的に「日本字音史の研究」としてまとめられる予定である。
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