1.中央アジア・東アジアについての中世・ルネッサンス期の地理学的知識はほとんどマルコ・ポーロに依存しているが、その記述の内容や地名表記は極めて多様で、また現在刊行されている「東方見聞録」に合致しない点が多い。それは、今まで文献学者が失われた原典を推定で復元することに専心し、中世・ルネッサンス期に流布した写本・古刊本がそれとは大きく異なっていることを無視してしきたためで、またそのギャップが地理学者や歴史学者を迷わせて来たことを、 写本・刊本・古地図の比較検討によって明らかにした。 2.その為「東方見聞録」の刊行には、現在の学問の段階では、もっとも原本近いと考えられるパリ国立図書館蔵のF116(F)を精密に転記するとともに、この書物の中世における流布の多様性・複雑性に鑑み、フランス及び英国の宮延で読まれた標準的フランス語の写本、中世に広く流布したビビノ訳ラテン語本の優れた写本、 地理学者や貿易商に影響を与えたヴエネチア方言本、ルネッサンス期の地理学的知識の基礎になったグリナエウス本などを並列的に刊行すべきであるという結論に達し、F本本文の校訂を完了するとともに、他の写本・古刊本の校訂本作成のための資料を収集した。 3.更にColle`ge de FRANCEのゲルノ教授、同中央アジア研究センターの協力を得て、必要な資料を調査収集した。 4.F本の言語である、Franco-Italienについてはまとまった研究が存在しないので、パリ第七大学Cerqulglini教授の協力を得てこの特殊な言語の特徴をほぼ解明することができた。また、東方見聞録のF本の刊行には、写本の不安定な綴字、異様な語形変化などをそのまま保存すべきであるという結論を得た。
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