当初、本研究は今次大戦中日本人非戦闘員が受けた戦争災害に見られる非戦闘員の法的保護に関する理論と実際のズレを対象とし、沖縄住民と本土住民の場合の比較を予定していた。しかし両者間の比較が可能なのは空襲災害位であり、しかも沖縄でははるかに大きな住民犠牲が地上戦から生じているのに、これは本土住民の場合と比較できないので、結局沖縄住民の地上戦災害に対象を紋り、戦時国際法上の一般住民に関する理論と実際との差を研究することとした。 研究成果報告書は、六つの部分からなる。まず「はじめに」では、沖縄戦の背景となる第二次大戦末期に日本が置かれていた状況を、日米の記述を対比させながら概説する。つぎに第一章では、沖縄戦の経過を簡単に振り返り、沖縄の一般住民間に十万人近い死者を生じた原因を探る。その当・不当は別として、日本軍の作戦には、住民無視の傾向が強いように筆者には思われる。続く第二章では、戦時国際法(条約・慣習法)の認める戦闘員・非戦闘員の法的地位を概観する。両者は法的には対照的な扱いを受ける。 ところで、沖縄住民が蒙った戦争災害には、通常の戦闘のまきぞえによるものだけでなく、日米両軍から非戦闘員と知りながら加えられたものがある。第三章ではこの種の住民災害をとりあげ、それを、(1)日本軍を加害者とするもの、(2)米軍を加害者とするもの、とに分けて、各々実例をあげ、法的分析を試みる。第四章では、他に戦争法に照して問題となりうると思われる若干の点について法的評価を行ない、そして最後の「おわりに」では、沖縄戦において大量の住民が生命を失なうに到った原因の一つを、日本軍による完全な国際法無視にあったと結論する。日本は、戦争に関する国際法規則の流布に不熱心であり、兵士も一般国民もこれについて余りに無知であった。。この無知が沖縄の悲劇をもたらしたのである。
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