研究概要 |
西ドイツでは最近『積極的一般予防論』が有力に主張されているが、我が国では、二、三人の人によって、わずかにハッセマーやヤコブスの理論等が簡單にまた部分的に紹介されているにすぎない。この理論のなかには、それ以外にも種々の主張があり、この理論を批判したり、その欠陥の克服を図る学説等も既に発表されている。そこで、本年度は、この理論の本格的かつ網羅的研究を目ざして研究を進めた。この理論では、処罰の目的は、法秩序の持続力と貫徹力に対する信頼の維持と強化である。刑罰は、国民に法意識を習得・覚醒させ、法への忠誠(法遵守)を強化する意味を有すると主張。刑罰の威嚇効果を目的とする消極的一般予防論を次のように批判する。とくに犯罪者を一般国民の威嚇のための手段とする点、また、社会統制を充分に達成し得ず、行刑にも役立たず、刑罰の威嚇効果も検証困難である等。なお、積極的一般予防を認めるもののなかにも、積極的一般予防論に立つもの(Neumann/Schroth;Schonke/Schroder/Stree;Schmidhauser;Hassemer;Jakobs;HeglaMuller;Ernst Amadeus Walff usw.)と統合説として積極的一般予防を採り入れる学説(BVerfGE 45,187,254FF.;Muller Dietz)等がある。積極的一般予防論の長所は、社会統制の全構成の中によく組込まれ得ること、法益侵害を法律を正当として是認する市民の確信によって達成しようとする点、等である。しかし、E・A・ヴォルフは、この理論にもなお、他の者の法への忠誠という目的のために、個人がが手段として扱われる危険のあることを指摘。積極的一般予防論を責任原則によって補強すべきことを主張している(有責に行爲した場合のみ有罪。有責行爲とのみ均衡する量刑)。E・A・ヴォルフの一般予防論については熊本法学49,52号に発表。なお、最近英米でも、一般予防が個人を社会的善のための手段として処罰する危険があるとして、刑罰の正当化を新応報刑論によって行う学説が増えている。
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