研究概要 |
1.欧米の学界では、1970年代以降価値論と蓄積について活発な論争が生じている。それは欧米マルクス経済学の復興と現代の資本蓄積の現実的困難とに関連している。本研究は、日本の宇野理論の観点から、これら価値法則と資本蓄積についての最近の論争問題に寄与することを意図したものである。その成果は英文で刊行される予定である。 2.価値論に関しては、転形問題,さらには熟練労働,結合生産物などの論争点における理論的混乱を解決するうえで、価値の形態と実体との区分がきわめて重要であることがわかった。それとともに、本研究は、人間の労働能力の根本的平等性、再生産過程における剰余労働部分の弾力性など、価値法則の内容にいくつかの新たな洞察を示した。それらは、転形問題の積極的解明とあわせて、価値法則についての一般の理解を深めるものとなろう。 3.価値法則は、現実的には、景気循環の形での資本蓄積の動態をつうじて、その作用を示す。本研究では、資本蓄積の論理的過程から帰結する資本主義的人口法則にもとづき、規則的景気循環と恐慌に関する資本過剰論が提示、展開される。そのさい、とくに景気循環の異なる各局面において、価値法則の作用がどのように異なる様相を呈するかが検討される。ついで、現代の大不況への妥当性を考慮しつつ、景気循環の変容と長期波動論が考究されている。
|