本研究は雇用調整のメカニズムとその効率性に関する理論レベルの研究と日本の労働市場動学のシミュレーションモデルの開発、という二つの部分から成る。 理論研究においては、サーチ理論を使って労働者及び企業双方の異質性をあらわす様々な属性(労働生産性、雇用の安定性、労働の機械費用など)についての分布を考え、それに対応する雇用契約のあり方について、様々な側面(効率性、誘因両立性、離入職確率)から研究が行なわれた。その一は、異質性がもたらす双占剰余に関する分析で、そこでは剰余に独占的要素があり、その準地代を実現すべく各労働者や企業が求人・求職行動を行う場合、一般に探索過程に過少投資や過剰投資がおこることがわかった。また、異質性に関する情報の非対称性が存在する場合も、探索のもたらす私的利益は社会的利益を上回ることが示された。 次に、上記の理論モデルを使って、特に労働者の性、年齢別のコーホート間の労働生産性と、雇用の安定性の違いを明示的にとり入れたシュミレーションモデルを開発した。シミュレーションモデルは、生産性が景気循環をあらわす自己回帰過程によってdriveされる。計測された労働市場動学は、性・年齢のクロスセクションからの観察、及びマクロレベルでの時系列的特徴の両面から日本の労働市場の特性をよくとらえていることがわかった。 シミュレーションモデルを使った効率性の分析では、次の二点が明らかになった。第一に、失職のコストは性・年齢によって大きく異なり、特に中高年男子で大きく、若年・高年女子では小さい。第二に景気循環の変動の大きさや、産業間での景気の跋行性がもたらす失業率の上昇は、いわゆる縁辺労働力に集中しているものの、その社会的コストは概して小さい。
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