研究成果の概要はつぎのとおりである。 1.公的年金と私的年金にはそれぞれ長所と短所がある。世代と世代の助けあいを基本線とする公的年金は老後設計の中心基盤となって国民に安心を約束するものであるが、他面で人口高齢化の影響をうけ、特定の世代に過重な負担を押しつけるおそれがないとはいえない。公的高負担は個人の制度加入意欲を損い、企業活動を停滞させ、失業圧力を高めるおそれがある。私的年金はスライドが容易でないものの、雇用との接続がしやすく、給付設計も弾力的である。年金における公私の役割分担を考えるさいには、両者の長所を活力しつつ、短所を避けるような組み合わせを検討する必要があろう。 2.公的年金と私的年金の調整は容易でない。適用除外や代行には問題が少なくないので、むしろ公的年金の守備範囲を基本的部分に限定し、プラスアルファ分を私的営為にゆだねることが望まれる。 3.私的年金を政策面から支援するためには、諸規制を緩和する一方、拠出時の掛金控除を税制の中で認めることが必要である。 4.将来人口の新しい推計(昭和61年8月暫定推計)によれば、平均余命のいっそうの伸長が予想され、年金受給期間は65歳支給開始の場合でも旧推計より20%前後長くなると試算されている。結果的に公的年金負担も従来推計より重くなるが、退職金負担等とあわせて労働生産性の上昇分が年率1%程度あれば吸収可能である。 5.年金受給世帯の生活実態はきわめて多様である。平均値に基づく議論は高齢者の世界ではほとんど通用しない。将来の年金政策は、高齢者の多様な暮らしぶりを前提にして立案される必要がある。 高齢者の具体的かつ詳細な生活実態は今後の調査で明らかになろう。現在では資料に大きな制約がある。
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