60年度における理論的検討およびデータ整理とその予備的分析にもとづき、本年度においてはOECD諸国のサプライ・ショック過程での物価インフレ率・成長率・賃金インフレ率の振舞いを検討し、サプライ・ショックが日本経済および世界経済に与えた影響を明らかにし、日本の国際収支にどのような効果をもたらしたかを分析することを企画した。 われわれは、まず、物価インフレ率・成長率・賃金インフレ率の動きを踏えて、サプライ・ショックの日本の国際収支に与えた影響を検討した。すなわち、二回にわたる石油危機の過程で、(1)日本の石油のタームで測った実質賃金率が世界の他の先進国に比べて低下したこと、(2)このため、日本での生産要需利用において、輸入原油から国内技術労働への轉換が有利となったこと、(3)したがって、比較生産費構造上、エネルギー集約型産業が比較劣位に、技術労働集約型産業が比較優位になったこと、(4)よって原油輸入の減少と後者の製品の輸出急増とにより、日本の経常収支が黒字の幅を増加させたことを明らかにした。この研究は、討議論文にまとめられた。 第2に、サプライ・ショックの潜在成長率に与えた影響を分析した。(1)まず、生産関数にもとづく検討により、産出量・資本ストック比率(産出係数)が大きな値をとるほど、技術革新率と資本供給成長率が大きくなり、このため潜在成長率が高くなることを明らかにした。(2)また同時に、観測される成長率は、以上の産出係数の値に依存するだけでなく、稼動率にも依存することを示した。(3)上記の理論的検討にもとづき、日本・米国・カナダ・フランス・西ドイツ・ノールウェー・スェーデン・英国につき、潜在成長率関数の計測を行い、産出係数が潜在成長率に与える正の効果を析出した。そして、サプライ・ショックがもたらす調整コストの存在を明らかにし、日本の特見性を分析した。
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