この研究では、サプライ・ショックの与えた影響として、次の三点が明らかにされた。 1.サプライ・ショックの影響を有効供給関数と有効需要関数を用いて分析するため、両関数についての新しい考え方を展開し、それらを用いてサプライ・ショックの過程での物価と産出量の振舞いを検討した。そして、エネルギー集約型産業と技術労働集約型産業での振舞いの相違を発見した。この研究の一部は、Discussion Paper Series、No127、1985年9月に示した。 2.OECD諸国でのインフレ率・成長率・賃金変化率の動きを踏えた上で、サプライ・ショックの日本の国際収支に支えた影響を分析した。すなわち、 (1)石油で測った日本の実質賃金率が他の先進国に比して低下し、 (2)このため、日本では輸入原油から国内技術労働への生産要素利用転換が有利化し、(3)エネルギー集約型産業が比較劣位に、技術労働集約型産業が比較優位になるという比較生産型構造の変化が生じた。(4)そこで、原油輸入の減少と後者の製品の輸出の急増が生じ、日本の経常収支は大幅の黒字となった。この点は、Discussion Paper Series No148、The Institute of Economic Resoarchに示した。 3.最後に以上の過程を潜在成長力の側面からみる。 (1)生産関数にもとづく検討により、産出量・資本ストック比率(産出係数)が大きい値をとるほど、技術革新率と資本供給成長率が高まり、このため潜在成長率が高くなること、(2)また稼動率の上昇は観測される成長率を高めることを明らかにし、(3)日本を含む8カ国について潜在成長率を計測することをこころみた。その結果、産出係数の潜在成長率に対する正の効果が明らかになった。また、サプライ・ショックによる調整コストの発生が産出係数を低め、潜在成長率を低下させること、しかし、その間にあって、日本の潜在成長率が相対的に高いという特性が明らかにされた。
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