研究概要 |
一昨年から重力を含む量子論に対する最も有力な理論的可能性としての弦理論を中心的なテーマとして研究してきた. 今年度の研究の主なものを以下にあげる. (1)弦理論を特徴づける定数は通常は弦の拡がりに対応する「傾き」パラメターα^1と弦の相互作用の強さを表わす結合定数の二種あるとされる. しかし弦の散乱に対する攝動論的なルールの持っている性質から, 実は独立な定数はただ一個であることが以前から予想されていた. これは「ディラトン」の場の期待値をずらすことによって, α′とgの値が連続的に変化することに基づいている. これは極めて重要な性質であるが, 攝動論よらずに定式化することはできていなかった. 現在のところ, ディラトン, 従って閉じた弦の性質を非攝動論的に理解するには先円錐場の理論によるしかない. そこで一応この立場に立って, ディラトンの性質を調べた. その結果光円錐弦場の再定義によって結合定数を連続的に変化させることができることを弦場の作用原理に基づいて示すことができた. これによって弦の幾何学に対する一つの手がかりがさらに明確になった. (2)時空の幾何学の観点から見た場合, 弦理論がどのような意味で通常のリーマン幾何学の一般化になっているかを明らかにすることは重要な問題である. この点に関する考察を深め, 特に反対性の一つの表現として時間・空間における新たな不確定性原理を設定する可能性を提案した. 弦理論の散乱振幅の紫外有限性にこの原理によって自然に説明できる. この原理の正確な数学的表現を追求することが今後の重要な課題である. これらの考察は弦理論の〓〓〓を明白な形でその非攝動論的なダイナミクスを定式化するには弦場の概念は適切なものではないことを示しているように思われる. 現在このような動機に基づき, 弦の演算子形式を新しい観点から見直す研究を深めつつある.
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