最近広範な分野で注目されているIncommensurate(IC)相の多くは室温以下の温度に存在しており、その微細な変調構造を電子顕微鏡を用いて直接観察するには、1)試料を液体窒素温度近くまで冷却し、2)試料ドリフトを小さくして高分解能で像を観察出来る低温ホルダーが必要である。本研究の目的は、このような低温ホルダーを購入して整備し、種々の物質の低温におけるIC相の研究に適用することである。本研究は60年、61年の2年度にわたっており、初年度に低温ホルダーを購入し、所定の性能を実現するように整備しながら応用研究も並行して進めた。装置の最終的な仕様は、2軸傾斜機構を備えたサイドエントリー型の冷却ホルダーで、ホルダーの一方の端に液体窒素貯蔵タンクを付け熱伝導で冷却する方式を採った。試料到達温度は-150℃で、先端部に取付けたヒーターにより+25℃まで温度を変えられる。液体窒素を入れた状態で数秒の露出時間で撮影した電子顕微鏡像において1.2nmの分解能が得られた。この装置の応用としていくつかの物質を観察したが、特に成功を納めたのは【Rb_2】Zn【Cl_4】である。この物質はIC相を持つ代表的な強誘電体の一つであり、昭和60年の国際強誘電体会議において電顕観察が可能であることが示されたばかりであった。また、IC相は30℃から-81℃の間に存在し、低温ホルダーの温度可変範囲に十分入っている。IC相を観察した結果、2次元導体である2H-Ta【Se_2】に見られたようなディスコメンシュレーション(DC)のC軸方向の1次元配列が観察された。DCには2種類あり、6本が集まって2H-Ta【Se_2】におけるStrippleのようなDC格子の'欠陥'を作っていることや、昇温および降温の際のDC格子の密度を変化させる過程で、その欠陥が結晶内部で発生および消滅するようすを観察することが出来た。
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