研究概要 |
ウラン金属の低温相の結晶構造は底心斜方格子である。低温の電子比熱は小さく(10mJ/mol【K^2】)、室温の電気抵抗も大きくない(28μΩcm)。また、自由電子質量の約2倍のサイクロトロン質量をもつドハース・ヴアンアルフェン効果が観測されている。中性子回折の実験によって、(0.5,0,0)の波動ベクトルをもつ電荷密度波の存在が観測されている。これらの性質に、5f電子がどのように関与しているか調べるために、電子エネルギーバンド構造を相対論的APW法を用いて計算した。 5f電子は主として6d電子と強く相互作用して5eV程度の広いバンドを作る。フェルミ準位は、f-d混合によって生じた大きい分散をもつバンドを横切る。これらの計算結果は電子比熱や電気抵抗を定性的に良く説明する。電子比熱の温度係数の計算結果は実験値の約半分である。また、フェルミ面には非常に平らな、広い部分があり、波動ベクトル(0.5,0,0)の並進によって互いに重なる性質をもつことが知れた。このフェルミ面の性質は、この単純なバンド構造が、電荷密度波の形成に対して不安定であることを示唆する。 しかし、観測されたドハース・ヴァンアルフェン効果は、この計算結果によって説明することはできなかった。多分、計算で無視された非マフインテン形ポテンシアルの効果が大きいのかも知れない。この効果のフェルミ面に及ぼす影響の研究は今後の課題である。 ウラン化合物と比較研究するために、次の3つの希土類化合物のバンド計算を行った。Ce【Pd_3】:4fバンドとフェルミ面を計算し、その結果を用いて、この化合物の電気抵抗の異常を半定量的に説明した。La【In_3】:フェルミ面を計算して、高磁場磁気抵抗の実験結果を説明した。La【Cu_6】:ドハース・ヴァンアルフェン効果を説明するために、予備的計算を行った。
|