化合物半導体中の深い準位は、キャリヤーに対する無輻射再結合中心として作用するばかりでなく、その過程で放出されるエネルギーが原子系へ与えられ、種々の原子過程を誘起する事が知られている。しかしながらその理解は現象論的レベルにとどまっており、再結合過程で生ずる様々な中間状態に対する知見や、それらと誘起される原子過程との相関等は未知のまま残されている。本研究の目的は、代表者らが今まで絶縁体中の再結合過程の研究に用いてきた手法を、化合物半導体に適用し再結合過程に関する直接的かつ動的な知見を得る事にある。 本研究で得られた最も重要な結論は、化合物半導体中の再結合過程で重要な役割を果すものとして理論的にその存在が示唆されていた外因性自己局在励起子を、世界で初めて、実験的に観測した事である。 GaPを低温でパルス的に電子励起すると、いくつかの準安定中心が生ずる事が、発光、光吸収の実験により明らかとなった。その内のES1中心と命名した準安定中心は、1.53e【V】に発光帯を示し、その消滅は指数関数的である。このES1中心の生成は、0.1分子体積の膨張に相当する大きな格子緩和を伴っている。低温では、寿命が20ミリ秒であって輻射遷移が支配的であるが、160K以上では、無輻射再結合が支配的になる。これらの性質は外因性自己局在励起子の考えによって説明される。 この外因性自己局在励起子の輻射・無輻射消滅の効果、及び、その励起状態の電子構造と無輻射過程と、化合物半導体中で誘起される原子過程との相関を確立する事が今後の課題であり、その研究を通じて、化合物半導体中の再結合誘起原子過程の理解に対する質的展開が期待される。
|