研究概要 |
金属表面での秩序の問題の典型であるタングステン(W)(100)表面再構成とそれに対する水素吸着の効果を取り上げ, 幾つかの実験の解析, 理論的な検討を行った上で, 妥当と思われる現象論的なハミルトニアンを設定した. それを元に幾つかの工夫を凝らした計算機実験のプログラムを作り, 吸着水素の低被覆度領域で広範な研究を行った. 再構成を引き起こす表面W原子の変位と吸着水素との相互作用がこの表面系の吸着水素全被覆度を通じての本質的な役割を果たすものである可能性を昇温脱離を例に取り指摘し, 表面原子の変位を変数とする対心立方格子(100)表面の現象論的な再構成自由エネルギーの表式及び変位と吸着原子との相互作用の対称性を議論した, そのような現象論的な自由エネルギーの表式に基づき, 二つの可能なモデルを設定した相前後して発表された赤外の光吸収の実験によりその二つの中の一つのモデルが妥当であることが示され, 採用したモデルについて吸着水素原子数を一定に保つ正準集団及び吸着水素原子数を化学ポテンシャルで制御する大正準集団での計算機実験による解析を行った. 大正準集団での計算機実験では吸着水素に対してもランダムサンプリングを行うものと吸着水素については状態和において対角和を取り表面W原子間の実効相互作用の形にしてしまうものとの二通りの方法を用いた. 実験的に水素の低被覆度のところでは表面W原子の変位の方向が変わる転移が知られており, その転移に着目して解析を行った. 先ず正準集団での結果から定性的に実験結果に相当する相図が得られたが, そのほかに吸着水素の擬縮相を含む二相共存の可能性が示唆された. これは大正準集団での解析で確かめられた. このような擬縮相はW表面では知られていないが, 類似の表面系であるモリブデン(100)表面で実現していることが実験で示されている. 大正準集団の二つの方法は一致する結果を与える.
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