研究概要 |
非磁性金属においては、フェルミ面の形状や連結性を調べるために、高磁場領域(ωcτ>>1)のホ-ル係数や磁気抵抗の測定がよく行なわれてきた。ここで、ωcは伝導電子のサイクロトロン角振動数、τは緩和時間である。他方、低磁場領域(ωcτ<<1)では、ホール係数や磁気抵抗は散乱の異方性を反映した量、従って散乱中心のポテンシャルに関する情報を含んだものである。それゆえ、これらの物理量を精密に測定することは、金属の電子構造を研究する上で重要である。しかし、格子欠陥や溶質原子が分離した状態で存在し得る程に低濃度の試料では、低磁場ホール係数や低磁場磁気低抗の測定には、100pV程度の電圧を計る必要があり因難であった。本研究では、超伝導チョッパ増幅装置に次のような改良を加えて、雑音の多い環境下でも5pVの感度で測定を行なえるようにした。まず、ロックインアンプとチョッパ作動用パルス発生器との間を光結合することにより誘導雑音による影響を小さくすることができた。つぎに、4【1/2】桁のデジタルマルチメータを5【1/2】桁のものと交換することにより5pVの感度いの測定が行なえるようになった。さらに、高純度Al単結晶に数ppmという極微量の原子空孔を急冷により導入した試料で、低磁場極限のホール係数と横磁気抵抗係数を求めた。続いて、3d属元素のSc,Ti,Cuを10〜1000ppm含む希薄合金でこれらの輸送係数の測定を行なった。従来、3d属元素の原子番号順に低磁場ホール係数をプロットするとCrを中心としたパラボラ状になるという報告がなされていたが、十分希薄な合金では、ScからCuに向ってしだいに増加することが本研究で明らかとなった。また、Al-Ti合金では、Ti濃度の増加に伴なって、低磁場極限のホール係数は自由電子モデル値-3.41×【10^(-11)】【m^3】/Cよりもさらに負になり、かつ横磁気低抗係数は他の合金系における値の10倍以上にもなるという異常が見出された。今後のより詳細な研究が望まれる。
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