研究概要 |
狭い海峡を通って潮流によって海水が交換する場合に, 成層が存在することがどのような影響を与えるのかを, 海水粒子のラグランジュ運動に注目して数値実験的に検討した. 交換の測度として交換率を用いたが, これは『外海水の内湾への補足率』というのが相応しい. 成層が無いと, 海峡部の両側壁に沿って上昇流が, 海峡中央部で下降流が常に存在し, 鉛直循環流の2つのセルが生じる. これには底摩擦が重要な役割を果たしている. 潮流系自身に組織的な鉛直循環を作る機能があることが重要な点である. 3次元の場合, 底摩擦による鉛直方向の位相の変化が海峡周辺でかなり大きいことが分ったが, 粒子の鉛直運動によって粒子が違った位相の流れの場に入って行くということが, 粒子の水平的なドリフトを大きくし, 交換に大きな影響を与えている. 例えば, 系全体としては転流が始まる時間になっても, ある特定の粒子は元の運動を続けるということが生じる. 底層付近の交換粒子は上方へ大きく移動し, それ以外の層の交換粒子は全体として下方へ移動し, 効率を大きくしている. 成層があると, 独立の鉛直循環流系が上層・下層に作られるために, 鉛直循環流は弱くなる. 上層では海峡部の側壁に沿って沈降し, 海峡中央部で上昇するという成層がない場合と逆向きの鉛直循環流が生じ, その強弱は躍層面の東西の傾きによって変る. 鉛直流速は弱く, 上層の交換粒子の鉛直変位は小さい. 粒子はほぼ等密度面上を移動して行き, 下層上部の交換粒子は下方へ, 底層の交換粒子は上方へと移動する傾向がある. 交換率は小さくなる. 流速に応じて鉛直過粘性・拡散係数を変化させると, 海峡部周辺で密度の鉛直混合が進み, 成層が壊され, 効率はさらに小さくなった. 混合という運動状態を粒子の運動で表現するには, 対応する流速の乱れ成分を粒子追求に取込む必要がある.
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