担子菌ネナガノヒトヨタケにおける子実体形成の過程を、エネルギー産生の細胞小器管であるミトコンドリアの形態的・数的変化と関連付けて、動的形態学の立場で研究を行い、下記のような知見を得た。 1.エネルギー産生状態にあるミトコンドリアを検出する細胞化学的方法として、DAB法が最適であることが分った。この方法は、ミトコンドリアに特異的な呼吸酸素の一種チトクローム・オキシダーゼの活性を3.3'-ジアミノ・ベンジジン(DAB)によって、オスミウム・ブラックとして検出するもので、活性のあるミトコンドリアは黒く染まる。 2.上記の方法を用いて、子実体発生に伴うミトコンドリアの形態変化を調べた。栄養二核菌系細胞のミトコンドリアはヒモ状であり、この形態はごく若い子実体原基の構成細胞のミトコンドリアにも引き継がれている。原基の発生が進み、菌柄が分化すると、柄の上部と下部とでは、それを構成する細胞の外形やミトコンドリアの形態に明らかな変化が観察された。すなはち、柄下部は楕円形細胞から構成され、そのミトコンドリアはヒモ状であったが、成熟時に急激な伸長を行う柄上部細胞は円筒形となり、そのミトコンドリアは顆粒状に変形していた。さらに、成熟過程中の柄細胞のミトコンドリアは、上部・下部とも全て顆粒状となった。一方、菌傘を構成する細胞のミトコンドリアは、子実体発生の全過程を通して終始ヒモ状のままであった。 3.菌柄伸長の著るしい柄上部では、伸長率に応じて細胞当りの活性ミトコンドリア数が増減したが、伸長しない柄基部では、ミトコンドリア数の変動は認められなかった。菌柄伸長に欠損のある変異子実体では、柄の上部は伸長しないにも拘らず、ミトコンドリア数は上記の正常子実体の場合とほぼ同傾向の増減を示した。すなはち、この変異体における菌柄伸長欠損は、ミトコンドリアと無関係である。
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