研究概要 |
イセエビとザリガニを用いて、囲心腔器官のホルモン分泌がどんな行動に関連して起こるか、囲心腔ホルモンが循環機能をどう調節しているかを明らかにする目的で研究した。先ず、ビデオ装置と電気生理用装置を用いて、動物の行動と心電位を同時記録して長時間にわたって調べた。その結果、一定の安静状態にも関わらず、心拍頻度が毎分80回以上の状態と10回以下の状態が、規則的に交互に繰り返し起こっているのが見つかった。その繰返し周期は2分から10分に及ぶものが多かった。数分に及ぶ周期的活動には、内分泌系が介在している可能性が考えられたので、囲心腔器官の主要ホルモン類のプロクトリン、オクトパミン、セロトニンを各々囲心腔に注入して調べた。各溶液(10μM,5ml:終濃度にして0.1μM以下)の注入で、心拍頻度の低下した相が、一時的に短縮あるいは消失した。等量のリンゲル液のみの注入では有意な変化はなかった。それ故、この周期現象に囲心腔分泌系も介入しうることが示唆された。一方、プロクトリンの注入で、身体を伸展させ、反り返り姿勢をとらせることができた。この姿勢は、威嚇,逃避,遊泳など、活発な行動を開始する時に示すものであった。それ故、イセエビが上述の行動を開始するのに伴ってプロクトリンが分泌されている可能性が強く示唆された。そこで、囲心腔ホルモン類に高い感受性を持つイセエビの心臓動脈弁を用い、生物検定法で血液中の生理活性成分の検出を試みた。弁の応答から、主要囲心腔ホルモン類の三種と同様のものが、採取した血清中に生理学的に有意な濃度(1nM-1μM)で存在していることがわかった。従って、囲心腔ホルモンの血中濃度が、身体の姿勢、心臓の拍動、動脈弁の張力などに同時に影響を及ぼしうる程に、しばしば高まることが示唆された。なお、囲心腔ホルモン類の中枢神経系への影響についての詳細は、次年度に残されている主要な研究課題となっている。
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