昆虫での卵産下の機構については、その"ひき金"が何かについて、ホルモンに依るとする立場と、卵巣の成熟に伴う体内機械感覚に依る立場との二つが従来考えられていた。本研究は、交尾の後、雌の血リンパ液中に著るしい増加のあるプロスタグランジン(PG)のあることに着目し、この物質、PGE2と、PGF2αの消長に特に注目してすすめてきた。前者の体内注入(総輸卵管中への注入)により、凡そ20±5分の間に亘って卵産下の促進が現われてくることが処女雌で観測されたこと、これと共に産卵弁の運動が処女雌型から交尾雌型に一時的に変ったこと、E2の効果が顕著であるのに対してF2αの効果が極めて弱い事などを明らかにしたので、このE2の体内(雌の)に於ける動きを追うことから始めた。E2の体内合成に必要とされる前駆体のアラキドン酸を求めたところ、雌交尾のうちSpermathecaの中に時間経過と共に著るしく貯留してくることを発見した。交尾により雄から送りこまれる精子を、その運動性の変化から追ってみると、交尾のう内の精子は、交尾直後一時的に運動性を示すが、直ちに消失。再度現われるのは交尾後10時間以上の経過があってからであり、時間の経過に伴って運動性の10倍以上の増加、これに伴う受精卵の増加。また、雄から送り込まれる生殖附属腺分泌物の中にPGE2合成酵素が含まれていること、それを分泌する腺が黄色の長い細い管であることなどをすべて知ることができた。雄からの合成酵素の移送で、交尾のう内の前駆物質に仂きかけ時間経過に伴ってE2の合成があり、精子の運動性増大、受精卵の増加。さらに、産卵弁の運動が処女雌型から交尾雌型に変る。しかし、交尾の回数を一回に限定してみるとこれらすべての変化は、10日から14日に亘ってのみ現われてくること、従って、雌に現われてくる卵の産下の"ひき金"は、雄がもっていると云うメカニズムを明らかにすることが出来た。
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