研究概要 |
生体に含まれる微量金属元素の生理学的役割については不明のことが多い。その中で、バナジウムはATPaseの活性を制御していること、ホヤ類には高濃度で含まれていることなどから、生体において重要な働きをしていることが示唆されている。 すでに我々は過去数年間にわたった基礎的な研究により、2亜目にわたる種々のホヤ類の中から日本産のナツメホヤ,Ascidio ahodoriの血球には40mMものバナジウムが含まれていることを見い出した(Michibata et al,1986a)。 ところがこのホヤの血球細胞は形態学的に7種類に区分され、そのいずれの細胞がバナジウムの濃縮に関与するいわゆるバナドサイトであるかは不明であった。そこで本研究に当っては、密度勾配遠心法により血球細胞をそれぞれの細胞集団別に分離した後、放射化分析法ならびにESR分光法を用いて、実際にどの細胞がバナドサイトであるかを調べることに重点を置いた。 その結果、分析電子顕徴鏡などによる研究からこれまでバナドサイトと言われてきたMorula cellsの細胞集団については90%以上の純度で集めることに成功したものの、そこからはバナジウムが檢出されず、かわって密度勾配の最下層に分配されたSignet ring cellsの細胞集団から高濃度のバナジウムを檢出することができた。ESR分光法でそれらのバナジウムの化学形を檢討すると、原子価が4価で【VO^(2+)】の構造をもち、細胞内の低分子化合物と結合して還元状態にあることが分かった。これらの成果により、今後は純度の高いSignet ring cellsの細胞集団を用いて効率よくバナジウムの濃縮機構を調べることができるようになった。
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