研究概要 |
コオロギの神経系及びその標的器官の性二形を解析し、次の諸結果を得た。 1.雌雄それぞれの最終腹部神経節には、背側に細胞体をもつ背側不対ニューロンのみならず腹側に細胞体をもつ腹側不対ニューロンの数や形態に雌雄差が見出された。特に、性二形の明瞭な腹側不対ニューロンは、両側の第2,第7神経束に軸索を伸ばすニューロン群で、ニューロン数,細胞体の大きさ及びそれらの標的器官における雌雄差が顕著であった。 2.雄成虫の付属腺を取り巻く筋及びその開口部にある筋は、最終腹部神経節に存在する約130個の背側不対ニューロンによって支配されている。 3.付属腺にはプロクトリンが存在し、それは背側不対ニューロンの電気刺激及び付属腺のKCL処理によって付属腺外に放出されることが、HPLC法及びバイオアッセイ法で確認された。神経終末の全く認められない移植付属腺では、プロクトリン活性は認められなかった。 4.雄成虫の付属腺及び精包内にセロトニンを検出し、さらにセロトニンが雌成虫の貯精嚢管の律動的な収縮を誘発することを見出した。 5.発音運動を引き起す雄の前翅の筋M90の湿重量は、成虫脱皮後、除々に増加した後、一定値に落ち着くが、雌の相同筋の湿重量はいったん増加した後、減少する。また、雄の筋繊維の直径は雌のものより大きい。一方、前翅の筋M99の湿重量は脱皮後、やや増大するが、雌雄差はみられない。後翅の飛翔筋の湿重量は、雌雄ともに成虫脱皮後、次第に増大したのち、ゆっくりと減少する。ただし、最大値に達してからの減少速度は、雄が雌より著しい。これらの事実は、成虫脱皮後多くの飛翔筋は雌雄それぞれの後胚発生のプログラムにしたがって成長、退化することと、これらの成長,退化は飛翔運動の発現や雄における求愛歌の発現に密接に関与していることを示唆する。
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