研究概要 |
熱帯魚ルリスズメダイは通常、鮮やかなコバルト色を呈しているが、非常に速い体色変化を示し、暗紫色または黄緑色に変化する。この体色発現と変化に係わるのは、皮膚に一層に並んでいる虹色素胞であることがわかった。虹色素胞内には、細胞上部(表皮側)に位置する核から放射状に配列する反射小板堆があり、各小板間の細胞質は非常に電子密度が高く、微細繊維の存在が示唆された。小板どうしの間隔は極めて一様であった。細胞膜に近い細胞質中にはアクチン繊維らしきものが存在し、また、しばしば微小管も見い出された。モノクロメーターを使用し、紫外-可視光の反射分光特性を解析した結果、生理的塩類溶液中では380nm付近に反射光のピークが存在し、ノルエピネフリンや電気刺激によって、そのピークは530nm付近に移動した(彩色化反応)。高張液中でも波長ピークの移動がみられ、この魚では、小板間隔が変化することにより体色が変わることが結論づけられた。すなわち、非理想重層薄膜干渉現象と考えられる。一方、小板間隔の変化にアクチンフィラメントや微小管が関与するかどうかを検討した。サイトカラシンBは全く効果を示さず、コルヒチン,ビンブラスチンやポドフィロトキシンが運動性虹色素胞の彩色化を阻害した。チューブリンの標識抗体を用いて細胞内の分布をみたところ、細胞の周辺部に多いことが示唆されたが、光顕レベルでの詳細な解析は困難であった。電顕での検討は引き続きなされる予定である。ダイニンATPaseの阻害剤であるEHNAやバナジン酸も彩色化反応を抑えることがわかり、虹色素胞の運動にチューブリン・ダイニン系が関与することが示唆された。カルモジュリン阻害剤W-7によっても反応が阻止され、【Ca^(2+)】-カルモジュリン系の関与の可能性がある。さらに電顕観察で、ノルエピネフリン処理で、小板間隔が増大することが確認された。細胞内cAMPの増加は透明化反応を誘起することもわかっている。
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