研究概要 |
本研究では、物質の表面構造解析を目的に多結晶Cr、蒸着Ti膜、アモルファスTiFe合金薄膜のそれぞれを試料としてEAPFS法の利用を試みた。1.多結晶Crについて:Cr-【L_1】以降のEAPFS信号に着目して、Cr-【L_1】を基準に解析処理を行なったところ、終状態の電子の角運動量l=0,1,2に対し、それぞれ2.53A,2.54A,2.54Aの結果が得られた。結晶学におけるバルクCrの最隣接原子間距離2.50Aとほゞ等しい結果となっている。 2.蒸着Ti膜について:Ti-【L_1】以降の信号に着目して解析処理を行なったところ、l=0,1,2に対し、それぞれ2.93A,2.93A,2.58Aの結果が得られた。一方Ti-【L_3】以降では、l=0,1,2に対して、それぞれ3.29A,3.29A,2.97Aの結果が得られた。バルクTiの最隣接原子間距離が2.91Aであることを考えると、Ti-【L_1】励起ではl=0およびl=1への遷移が支配的であり、Ti-【L_3】励起ではl=2への遷移が支配的であると考えられる。 3.アモルファスTiFe合金薄膜について:Ti-【L_1】以降の信号に着目して解析処理を行なったところ、l=0,1,2に対し、それぞれ2.58A,2.44A,2.31Aの結果が得られた。一方Ti-【L_3】以降では、l=0,1,2に対して、それぞれ2.87A,2.77A,2.57Aの結果が得られた。アモルファスTiFeの最隣接原子間距離のデータがないので、測定結果の値からは終状態における電子の角運動量の分配は決定できない。しかし同元素において励起準位が同じであれば、化学的環境に影響されず、終状態の角運動量の分配は等しくなると仮定するならば、アモルファスTiFe合金薄膜のTi-【L_1】励起ではl=0,1の値は2.58A,2.44A,Ti-【L_3】励起ではl=2の値は2.57Aが得られる。これら三つの値はほゞ等しくなることからアモルファスTiFeの最隣接原子間距離は2.5A程度と考えられる。感度や精度の向上についてまだまだ改善する必要があり、今後の検討課題である。
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