応力腐食割れ感受性評価法としての低ひずみ速度引張り試験(SSRT)法に対して、破壊力学的検討を加え、これまでの定性的評価手法を設計あるいは各種構造物の健全性評価に拡張し得る定量的評価手法に高度化する事を目的とし、以下の知見を得た。 1.原子炉圧力容器鋼SA508class 【III】及びSA533B class 【I】について平滑材並びにき裂材を用いて高温水中SSRTを実施した。平滑材については、き裂初生以降の伝播速度を評価し、又き裂材については、割れ進展下限界特性及び伝播速度を評価した。さらにこのようにして得られた成長速度が、これまでの国際共同研究によって得られている定荷重応力腐食割れ速度と同程度である事を示した。 2.上記手法により鋼中硫黄含有量のき裂成長速度に及ぼす影響を明らかにし、鋼中硫黄含有量は下限界特性及び応力腐食割れ臨界電位には著しい影響をもたらすが、伝播速度に及ぼす影響はさほど大きなものではない事を明らかにした。又溶液中に含まれる【SO4^(2-)】イオンの割れ特性に及ぼす影響についても詳細な検討を加え、この効果が鋼中硫黄含有量と相加的効果をもたらす事を明らかにし、軽水炉、圧力容器の健全性評価において重要である事を示した。 3.平滑材及びき裂材についてSCC割れ成長速度が、き裂先端のひずみ速度あるいは新生面形成速度に根拠をおく、時空間解析によって統一的に記述される事を明らかにし、割れ成長の物理モデルを提示した。 4.軽水炉圧力容器の健全性評価技術、高度化における欠陥評価技術の中核となる本欠陥成長評価手順は、現在日本原子力研究所構造安全研究委員会腐食疲労専門部会データ評価ワーキング・グループにおいて、検討され、欠陥評価試案として取りまとめ中である。
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