研究概要 |
1.直流高電圧を印加した真空中の平行平板電極間で、カーボン超微粒子(〜200【A!°】径)の静電界による帯電、凝集状態からの分離、加速という一連の高エネルギ化プロセスとその機械的な高パワー密度衝撃とに基づき、常温基板(陰極)上に硬質の非晶質半動体炭素膜を効率的(〜800【A!°】/mn)に作製する方法を開発した。 2.作製膜の内部構造は、低抗率とその温度特性およびこれらの熱処理に伴なう変化、ならびに硬さの測定結果より、固体間の高速衝撃効果を受けて炭素原子の4配位結合状態と高密度な格子欠陥(ダングリングボンド)とを内在する非晶質構造に変化したものと評価される。 3.潤滑性保護膜への適用を想定し、硬質炭素膜の潤滑機構と摩耗開始条件とを明確にすることを主目的とする同一軌道上すべり摩擦実験を各種雰囲気・摩擦条件下で実施した結果、(1)大気中では、摩擦係数が表面吸着分子の被覆率によって一義的に規定されるという典型的な境界潤滑特性が認められ、関与する吸着種は物理吸着した水分子(吸着熱〜36KJ/mel)とみられる。(2)プラズマ法・ダイヤモンド状炭素膜での知見と同様の極低摩擦状態(摩擦係数;0.02前後)が確認された。この状態は、分子の吸着と摩擦作用による脱離とが低い被覆率で平衡を保つような摩擦条件で成り立つ。(3)上記の平衡条件が成り立たない摩擦状況(高速,高負荷,低湿度)では、低摩擦状態を経て微上摩耗粉の排出が開始し、異質な界面状態になることで摩擦係数は漸増する。これらの結果は、水分子が炭素膜本来の潤滑性能を阻害する因子として働く一方で、活性な表面欠陥にターミネータ(終端子)として結合することで摩耗の開始を遅らせる役目をも兼ねていることを示唆している。
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