1.サブミクロン電子デバイスの電子の走行時間はピコ秒の領域で、デバイスの動特性はピコ秒領域のホットエレクトロンの緩和現象を反映する。この緩和現象は、化合物半導体では、主として極性光学フォノンとの相互作用により決定されている。本研究ではヘテロ構造における量子サイズ効果を伴った電子-格子相互作用及び電子-不純物相互作用がホットエレクトロンの緩和現象に及ぼす効果を検討した。 2.ヘテロ構造並びに超格子構造における格子振動モードを数値計算により調べた。その結果、音響モードに伴う原子の変位は3次元バルクと大きな相違はみられないが、極性光学モードに伴う原子の変位は強い局在性を示すことが判明した。この原子変位による双極子能率及び電子-格子相互作用に対するハミルトニアンを提案した。 3.上記ハミルトニアンを用いて、電子-格子相互作用の量子井戸巾依存性を検討した。その結果、量子井戸巾が狭い程、電子の緩和時間は長くなり、ポラロンの束縛エネルギーは小さくなることが判明した。また相互作用は2次元電子系では3次元系より短距離力になることが明らかになった。 4.ホットエレクトロンのサブバンド間遷移と量子井戸間の遷移との同等性を調べるため、GaAs-AlGaAs超格子でGaAs量子井戸を2種類もつものを作製し、このホトルミネセンススペクトルの電界依存性、電子温度依存性を検討した。この結果、不純物散乱又はホノン散乱によるバンド間遷移即ち実空間遷移をはじめて実証することができた。 5.以上の成果により、ホットエレクトロンの緩和現象に対する量子サイズ効果に対する有意な知見を得たが、今後の問題として、定量的検討を行い、電子の動的性質の理解をすすめる予定である。
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