本研究では、避難行動能力の基準化・定量化のために、以下に述べる7つの実験を実施した。その実験は大きく2つのグループに大別される。第1のグループに属する実験は、空間形状あるいは火災状況が左右する避難属性の解明に関わるものである。まず経路選択に関する実験では、一対比較法を用いて人間の経路選択特性を探り、最短経路選択志向と見えやすさ志向が主要因となることを解明した。階段合流に関する実験では、階段流と通路流では時間経過とともに合流比で通路流が優勢となる傾向のあることを明らかにした。避難心理に関する実験では、心理を血圧で測定することの有効性を明らかにするとともに、心理不安が学習効果により和らぐことを明らかにした。煙中歩行に関わる実験では、煙の中での歩行速度が、非常照明下で0.4〜0.8m/sとなることを明らかにした。 第2のグループに属する実験は、災害弱者の避難行動能力の解明に関わるものである。保育施設における実験では、園児の年齢とともに、職員と園児の比率によって、避難速度が左右されることを明らかにした。病院における実験では、担送方法や介護方法により避難所要時間に大きな違いの生じること、水平歩行速度として0.5m/s程度を計算上で採用すべきことを明らかにした。老人福祉施設における実験では、車イスやストレツチヤーへの移し替えに時間がかかること、また階段等による垂直移動には問題が多いことを明らかにした。 以上の実験により、避難シミユレ-シヨンに用いる入力条件の精緻化がはかられた。
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