本研究の目的は非晶質金属CuZrFe合金の構造特に電子構造をメスバウアー効果によってあきらかにすることであり、さらに熱的安定性との関連をも議論しようとするものである。試料はCu、Zr、Feをアーク熔解して、不活性ガス中での単ロール法によってつくった。Fe濃度のうすい試料についてはメスバウアー核^<57>Feを富化したものをつかった。1.Cu_<60>Zr_<40>あるいはCu_<59>Zr_<40>Fe_1についての結果:メスバウアースペクトルは大きく分裂したスぺクトルを示す。そしてこの形および各パラメーターはFeZr金属間化合物特にFeZr系非晶質合金とよく似ている。これからCuZr中でのFeにはZrが配位しているものと結論される。さらにCu_<60>Zr_<40>非晶質合金の性質はFe_<75>Zr_<25>とほぼ同様の電子構造であると結論できた。結晶化過程は熱分析をみるかぎり1段である。しかしメスバウアースペクトルの変化は少くとも2段階の変化を示した。結晶化前でもデバイ温度、四極子分裂、アイソマーシフトにわずかな変化がある。結晶化は773K30分の焼鈍でおきる。最も大きな変化は四極子分裂の減少である。すなわち結晶化によって非晶質合金の非対称性がすくなくなったことを示す。873K30分焼鈍ではさらに非対称性を失う。結晶化に伴ってアイソマーシフトはいくらか増加する。これはFeのd電子が増加していることを意味する。2.Cu_<60ー>xZr_<40>Fex(1≦x≦20)についての結果:熱的安定性はFe濃度増加とともに低下する。活性化エネルギーはCu_<60>Zr_<40>で5.8eV、Cu_<40>Zr_<40>Fe_<20>では3.9eVである。またFe濃度増加とともに非晶質は作製しにくくなった。デバイ温度は四極子分裂、アイソマーシフトはFe濃度増加とともに減少する。すなわちこれらは熱的安定性とも強く関連している。非晶質を安定化するためには(Cu、Fe)とZrのあいだに強い結合が必要であり、これにはd電子が必要とされる。Feが多くなるとd電子が不足し非晶質構造をこわしてしまうものと考えられる。
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