研究概要 |
本研究では研究代表者の所属機関に既設のX線回折装置を、X線異常散乱現象を利用する特殊な構造解析装置として活用するために、研究実施計画に従って、シングルチャンネルアナライザー、RS232C用インターフェイスを付加した。また種々のICチップを購入し装置制御の自動化を計るとともに、購入したデジタル電圧計により各種部位の調整ならびに作動状態監視機構を整備した。これらの性能向上あるいは整備実施後、まずCu,Ni,Znなどの吸収端近傍におけるX線異常散乱因子、(とくに実部)の測定を行い、得られた結果を相対論効果を加味した理論計算値と比較し、目的とする吸収端より低いエネルギー側でよい一致を確認した。ついで精密なX線散乱強度を得るため弾性散乱のシグナル部分に混入するKβ成分の正確な除去を目的として、半導体検出器のエネルギー分解能を利用し蛍光X線の成分比(Kβ/Kα)を散乱角度の関数として求めた。吸収端近傍の測定中、非周期系物質の環境構造解析に直接関係しないKα成分を測定することにより、あらかじめ得られたKβ/Kα比を利用してKβ成分を正確に除去する方法の有効性を確認した。これらの基本事項にもとづいてCu-Zr系非晶質合金のCu元素のK吸収端(8.979Kev)近傍の3種類のエネルギーを選び、X線散乱強度のエネルギー依存性を測定した。得られたデータは緩和型稠密無秩序模型により得られた計算値をよく再現できる。 本研究ではX線異常散乱に着目し、多成分非周期系物質における特定元素の周りの原子分布を精密に決定するという新しい構造解析法の確立を試みた。X線異常散乱専用装置の建設あるいはこの新しい構造解析法を非周期系物質に適用するための原理的,実験的諸問題の分析と対策をEXAFS法などの構造解析手段との特質を比較検討しながら推進したので、非周期系物質の研究に少なからず寄与するものと考えられる。
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