昨年度はγ-Feの粒子を析出させたCu-1.5mass%Fe合金(γFe試料と呼ぶ)の応力制御、歪制御疲労試験を行ったが、今年度はそれに加えてCu-Fe固溶体(溶体化試料と呼ぶ)とα-Fe粒子を析出させた試料(αFe試料と呼ぶ)における疲労挙動も調べた。さらにγFe試料でもいくつかの追加実験を行った。本年度に得られた主な知見を以下に要約する。 1.溶体化試料での疲労挙動はf.c.c.金属で報告されているものと本質的に同等であった。すなわち、応力制御法、歪制御法のいずれにおいても疲労硬化を示し、転位組織も低応力レベルから高応力レベルへ移行するにつれて、均一組織→刃状転位の束状組織→ループパッチ組織→双極子壁とチャンネル組織→セル組織と変化した。 2.αFe試料でも疲労硬化を示したが、その程度は小さかった。この試料ではα-Fe粒子の存在のために、転位組織の発達は溶体化試料に比べると遅れたが、γFe試料に比べるとより発達していることがわかった。 3.繰り返し変形中の各段階でのγFe試料の内部組織を調べたところ、γ-Fe粒子は繰り返し変形の極めて初期段階でα-Fe粒子にマルテンサイト変態を起こすことが見い出された。 4.このマルテンサイト変態に伴って、変態したFe粒子の周囲には複雑にからみ合った転位が発生するが、この転位の存在のためにγFe試料では疲労中の転位の再配列が困難となり、したがって転位組織の発達が溶体化試料やαFe試料に比べて遅くなると考えれば組織観察結果を合理的に説明することができた。
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