研究概要 |
本研究はδ/γ2相混合組織を有するステンレス鋼溶接金属の耐食性劣化機構を解明し、その改善の方策の指針に対する基礎資料を得るために実施したものである。前年度および今年度の研究結果から得られた成果を要約すると下記のごとくである。 1)δ/γ相混合組織を有する溶接金属の耐孔食性劣化機構は凝固モードに依存し、γ初晶型とζ初晶型に大別できる。 2)γ初晶型溶接金属では凝固偏析に伴う、セル中心部付近でのCr,Moなどの耐孔食性強化元素の減少が耐孔食性劣化の主原因となる。 3)δ初晶型溶接金属では溶接過程でδ/γ界面に析出したCr炭化物周囲に形成されるCr欠乏層が耐孔食性劣化の主原因となる。 4)δ初晶型溶接金属内のδ/γ界面に析出するCr炭化物の析出に起因した精界の"鋭敏化"は鋭敏化過度域でのきわめて短時間の保持によって回復する、いわゆる"ラピッドヒーリング"現象を示す。 5)δ/γ2相組織を有する溶接金属において生じる鋭敏化のラピッドヒーリング現象に関して理論的な検討を行い、こと現象はCr炭化物の生成が拡散速度の大きいδ相からのCrの拡散によって律連され、早期においてマトリックス中のCの固揚が生じ、その結果、Cr炭化物/マトリックス界面の平衡Cr濃度が上昇することに起因することを明らかにした。 6)溶接金属の耐孔食性を改善する方策として、Nの溶接過程における添加が有効であることが明らかとなった。この効果は、あるN量までは大きくなるが、過剰の添加はCr窒化物の生成を招き逆に耐食性を劣化させる。さらに、N添加効果が有効に得られるのはδ初晶型溶接金属である。
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