研究概要 |
一酸化炭素を用いる合成反応の研究は専らフィッシャー・トロプシュ反応やオキソ反応に代表される大型化学工業に重点が置かれており、精密有機合成を目指す研究は末だ十分とは言えない。本研究では、不安定中間体としての炭素陽イオンと一酸化炭素との反応に着目し、新しい有機合成反応の開発を試みた。 その結果、1-アダマンチルメシレートまたはトリフレートと一酸化炭素を、トリフルオロメタンスルホン酸とアダマンタンの存在で反応させ、1-アダマンチルカチオンから一個の増炭を経て、3,4-ホモアダマンタンジオール骨格を構築する新反応を見いだした。さらに、この反応の機構を検討した結果、中間体として1-アダマンタンカルボアルデヒドを経由することが分り、このことから種々の橋頭位アルデヒドを一酸炭素と1-アダマンチルカチオン、または好ましくはベンゾイルトリフレートによって環拡大し、ビシクロまたはトリシクロアルカンの1,2-ジオール類を合成する新しい方法を開発することができた。こうして得られたジオール類は、隣接炭素上にオキソ基やメチレン基をもつ橋頭位炭素陽イオンを与える基質に容易に導くことができた。本研究ではビシクロおよびトリシクロアルカン類の2-オキソ-1-トリフレートの【SN_1】反応性を検討した結果、これらの基質から発生するケトカチオンでは、陽イオン炭素のp軌道とカルボニル基のp軌道がほぼ直交しているため、炭素陽イオンの安定性に対するカルボニル基の電子吸引効果のみを評価することができた。この結果と、文献記載の共役系α-ケトカチオンを経る【SN_1】反応の結果とを比較することにより、カルボニルの共役による第三級アルキルカチオンの安定化効果は高々1.4〜2k【calmol^(-1)】であることを明らかにした。今後は上記の合成方法を駆使し、隣接炭素上にメチレン基をもつ橋頭位炭素陽イオンの安定性を評価する予定である。
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