人工栽培されているキノコ類には、細菌性の腐敗病が多発し、問題となっているので、その病原菌の種類および発生生態に関する研究を行った。 1.わが国で栽培されているキノコ類(ヒラタケ、エノキダケ、シイタケ、マッシュルーム)の腐敗株から病原細菌の検出を試みた結果、Pseudomonas tolaasiiがいずれの腐敗部からも検出されたことから、栽培キノコの腐敗要因はP.tolaasiiが主因であると推定した。なお、シイタケ、ヒラタケ、エノキダケからのP.tolaasiiの検出例は本報告が初めてである。 2.栽培キノコから検出されたP.tolaasii分離系の性質は整一で、分離源キノコによる差は認められなかった。しかし、血清学的には系統間に差がみられ、数種の血清型の存在が示唆された。 3.野生キノコの腐敗株からは、P.tolaasiiは検出されず、野生キノコの腐敗には他の要因が関与しているものと推定した。 4.P.tolaasiiは腐敗キノコから同時に検出されるPseudomonas sp.とDAF培地で対時培養すると集落間にWhite lineを形成する。この現象はキノコ分離系のみに認められ、P.tolaasiiの重要な鑑別性状であると判断した。この反応を指標に検出限界を調査した結果、1CFU/0.02ml濃度まで検出可能であった。検定には2〜3日で充分であった。本法で、キノコ栽培室の子実体、棚や栽培資材に付着した水滴からP.tolaasiiが検出された。また、落下水滴で生じたaerosolsからもP.tolaasiiが検出された。 5.他種細菌のWhite line形成能を調べたところ、P.marginalis群細菌の一部の系統が反応し、P.tolaasiiと同質のWhite lineを形成した。これら分離系は、P.tolaasiiと極めて類似した細菌学的性質を示すもので、今後White line形成の有無が新たな菌群類別の指標として用い得るものと考えられた。
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