サツマイモ塊根及びジャガイモ塊茎の貯蔵タンパク質は、細胞の液胞中に蓄積していることが細胞分画法によって明らかになった。これらの貯蔵タンパク質は膜結合ポリソームで合成され、サツマイモ貯蔵タンパク質スポラミンは分子量が約4千大きな前駆体として合成される。大腸菌の発現ベクター上に作成したcDNA発現ライブラリーを、抗体を用いた免疫学的スクリーニングをすることによって、スポラミン、及びジャガイモの3種類の貯蔵タンパク質の全鎖長cDNAを単離・同定しそれらの全塩基配列を決定した。また、この方法により適した発現ベクターの改良も行った。塩基配列から推定されたジャガイモ貯蔵タンパク質前駆体のN末端には、いずれも典型的なシグナル配列が存在したが、スポラミン前駆体のN末端にはシグナル配列の後に更に成熟型にない荷電アミノ酸に富んだ配列が存在した。スポラミン多型成分を支配する多重遺伝子族のうち、これまでに決定した5種の遺伝子においてこの基本的構造は良く保存されていた。このN末端の余分な配列の内のシグナル配列だけがERにおいて除去されることが分かり、荷電アミノ酸領域は液胞へと輸送される過程、又は液胞で除去されると推定された。この前駆体N末端の基本構造と2段階のプロセシングによる除去は、動物リソゾームや酵母液胞に局在するタンパク質のプレプロ型前駆体のそれと類似している、酵母発現ベクターを使ってスポラミン前駆体を酵母中で発現させたところ、スポラミン前駆体の少なくとも一部は液胞に輸送されていることが示唆された。また、植物の強いプロモーターの下流に繋いだスポラミンcDNAをTiプラスミドペクターを使ってタバコに導入し、スポラミン前駆体を発現させたところ成熟型と同じ大きさのスポラミンが検出され、サツマイモ塊根と同様のプロセシングを受けたことが示唆された。
|