インスリンは細胞形質膜に存在する特異的受容体に結合することによって各種の細胞機能を制御している。インスリン受容体はαとβの2種類のサブユニットから成っており、βは蛋白質チロシン残基リン酸化活性を持っていることが知られている。この活性はインスリン結合によって促進されβの自己リン酸化が観察されるが、これがインスリン受容情報伝達の第一段階であるか否かについては疑問が多い。自己リン酸化だけではなく細胞形質膜や細胞骨格構成蛋白質のリン酸化も観察されており、いづれが真のインスリン受容情報の伝達機構として作用しているかについては結論が出ていない。 インスリンによって制御されている細胞機能は広汎にわたる。大別すると1)糖やアミノ酸などの栄養素の細胞形質膜透過性を増大させる。2)糖・脂質・アミノ酸の同化代謝を促進する。3)各種細胞の増殖を促進するなどが挙げられる。このように広汎な作用をおよぼすためには、多種類のインスリン受容情報の伝達機構が備わっていると仮定するほうがむしろ自然である。 このような広汎なインスリンの作用機構を解析すべく、ここでは培養肝ガン細胞と初代培養肝臓細胞を用いて、尿素回路酵素の遺伝子発現に対するインスリン等の作用機構を解析した。尿素回路酵素の発現がインスリンによって抑制されることを世界で初めて明らかにするとともに、グルココルチコイド・グルカゴン・カテコールアミンなどによる尿素回路酵素の多重制御機構を解明した。また、脂肪細胞の培養下モデル系として有用な3T3-L1細胞に対するインスリンをはじめとする各種因子の作用を検討した。特に肥満の制御を目標とする脂肪組織形成にかかわる因子の究明に重大な展開を得ることができた。
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