(目的)食用油脂構成脂肪酸の健康に対する有害性が疫学的に示されつつある。しかし、細胞や臓器レベルにおける毒性発現の機構は不明である。本研究は、不飽和脂肪酸合成系を欠損した動物培養細胞を開発することにより、動物細胞に対する不飽和脂肪酸の作用を分子レベルで解明することを目的とした。 (成果)チヤイニーズハムスター肺由来の線維芽細胞V79より不飽和脂肪酸要求性変異株V79-UFをクローン化することに成功した。本細胞は脱脂血清培地ではステアロイル-CoA不飽和化酵素の誘導生成を行うことができず、このため不飽和脂肪酸合成が不可能となった変異株であることが明らかとなった。したがって、生育には不飽和脂胞酸を要求した。本細胞を用いて高度不飽和脂肪酸とくにアラキドン酸の作用を調べた。アラキドン酸は200μMで強い生育阻害を示した。この場合、DNA及びタンパク質合成は抑制されなかったが、アラキドン酸は生体膜リン脂質に多量にとり込まれ新しい分子種が生成した。しかし、形質膜の流動性は大きく変化しなかった。形質膜におけるコレステロール/リン脂質比は細胞内オルガネラ膜に比して高い値がえられた。この結果は、V79-UFでは形質膜の流動性を調節するために小胞体より形質膜へコレステロールを積極的にトランスロケートする機構が存在することを示唆している。一方、細胞内オルガネラ膜は形質膜よりもさらに多くのアラキドン酸を含むリン脂質分子種から構成されているにも拘らず、コレステロールは一方的に形質膜へ移行するために、その含量は低下した。それゆえに、細胞内オルガネラ膜の流動性に異変が生じ、究極的に細胞死に至るものと結論される。
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