本研究は、グアニジン化合物に特異的に作用する細菌の調節および基質特異性に関する知見に基づき、新たなグアニジン化合物を利用できるように変異した変異株を分離し、その変異のメカニズムを解析することにより細菌の代謝系の進化を実験的に解明しようとしたものである。 Pseudomonas aeruginosaの生産する酵素グアニジノプロピオン酸アミジノヒドロラーゼ(GPH)はタウロシアミンに多少作用するが、この酵素がタウロシアミンによっては誘導されないため、菌はタウロシアミンを利用できない。タウロシアミン利用性変異株を紫外線処理後分離する本研究の試みは成功し、多数の株が得られ、その中のM-6株について詳しく調べた。本株はGPHの構成変異株ではなく、グアニジン化合物と接触させた時にのみGPHを生産したが、その誘導剤は、親株においてはグアニジノプロピオン酸のみであるのと異なり、タウロシアミン、グアニジノ酢酸、グアニジノ酪酸などであった。これらの実験から、M-6株においてはGPHの生合成を調節するタンパク質(レプレッサー)の機能は失なわれていないが、誘導剤に対する特異性が変化していることが明らかとなった。これまで分離された多くの同じタイプの実験系での変異株が、多くの場合ある酵素の構成変異株であることと、本研究の結果はやや異っており、自然淘太において不利な点を持つ構成変異株ではなく、誘導特異性の変化した変異株が分離された。この変異株は新しい化合物を利用でき、かつ酵素合成調節能を維持している。Serratia marcescensとグアニジノバレリアン酸を組み合わせた実験系でも同様な変異株が生ずることが本研究で確かめられ、この種の変異が細菌代謝能の進化に重要な働きをしていることが示唆された。またジアニジノブタンとそのホモログを用いて、このような実験系を組み立てることが可能であるという結果も得られた。
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