研究概要 |
リジン脱水素酵素はL-リジンの末端アミノ基のみを酸化的に脱離する新規のアミノ酸脱水素酵素である。本酵素をAgrobacterium tumefaciens ICR 1600より精製し、その酵素化学的性質、物理化学的性質を明らかにすると共に本酵素の触媒機能をサブユニット構造と関連づけて究明した。本酵素は同一サブユニット(分子量約39,000)2個からなる二量体として存在するが、リジン存在下では四量体となってより高い活性を示した。この二量体と四量体間の解離会合は酵素のSH基をDTNBで修飾することにより固定され、リジンを加えても活性化も、会合も起らないが、DTNB処理した酵素を2-メルカプトエタノールで処理することにより、再びリジンによる酵素の活性化や会合が認められた。リジンは基質であり、リジンが活性部位に結合して本酵素を活性化させるのか、活性部位とは別に調節部位が存在し、調節部位にリジンが結合して本酵素を活性化するのかを明らかにする為に、リジン以外の活性化因子の検索を試みた。その結果、基質とも阻害剤ともならない多くのアミノ酸や有機酸によって本酵素が活性化されることが明らかとなり、本酵素には基質結合部位のほかに調節部位が存在することが判明した。活性化剤としては炭素数6ケ以上で、しかもカルボキシル基を有するアミノ酸あるいは有機酸が高い活性化をもたらすことから、調節部位には(+)の荷電と疎水性の領域が存在することが考えられる。次に、本酵素反応を立体化学の面から究明し、リジンのε位の炭素に結合している2つの水素のうちプロ-Rの水素のみが脱離されることを明らかにした。また、還元型補酵素の水素転移の立体特異性について検討したところ、本酵素の場合には基質の水素が還元型補酵素のニコチンアミドの4位の炭素のプロ-Rの位置に取り込まれ、その立体特異性はA型であった。さらに、本酵素を用いて鋭敏でしかも特異的なL-リジンの酵素的定量法を確立した。
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