研究概要 |
高等植物の通導組織に含まれる植物ホルモンの追究を行うためには、きわめて高い感度と信頼性を有する分析法を確立しなくてはならない。現在それに相当する分析法は質量分析であるが、その信頼性とくに定量性を高めるためには、安定同位元素で標識した内部標準物質を用いなくてはならない。本課題においては、ジベレリンを主要な対象とすることから、主として化学的方法により、重水素標識したジベレリンA_1(GA_1),をはじめ計7種のジベレリンを調製した。また、放射性標識したジベレリンを効率よく調製するために、トリチウムガスを置換反応によって簡単に導入する方法を確立した。通導組織中の植物ホルモンの追究には、イネを対象とし、その篩管液中のジベレリンとアブシジン酸の分析を試みた。篩管液の採取は、篩管液を吸汁中のトビイロウンカの口針をレーザー光線で切断し、口針を通じて吐出する液を集めることにより行った。篩管液中のアブシジン酸は、メチル化したのち、電子捕獲型検出器を用いるガスクロマトグラフィーにより分析した。その結果、茎葉部のアブシジン酸と同程度のアブシジン酸が篩管液中に含まれていることがわかった。レーザー光線を用いる方法で得られる篩管液は微量であり、ジベレリン分析には不十分なので、これに代わる試料として、トビイロウンカによって排泄されるハネーデューを集めて分析に供した。その結果、GA_1、GA_4、GA_<19>、GA_<20>、GA_<29>が同定・定量された。それらのうちで、GA_<19>の含有量がもっとも多かったが、これはイネの茎葉部におけるほど他のジベレリンにくらべて多くはなかった。アブシジン酸は、3葉期から分げつ盛期まで含有量は増大したが、幼穂分化期には減少した。このようにハネーデューを用いる実験が、篩管液中のジベレリン、アブシジン酸の追究にいかなる意義を有するかを調べるためのモデル実験も行ったが、結論を得るまでには至らなかった。
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