呼吸鎖電子伝達系のNADH酸化酵素は、天然の殺虫性物質であるピエリシジンやロテノンによって特異的な阻害を受けることが知られている。そこでこれら天然物の化学構造上の特徴を組み込んだ化合物を設計・合成し、呼吸鎖電子伝達阻害活性と構造の関係を調べた。新型化合物に導入する構造要素として、ピエリシジンの複素環母核構造と、ロテノン多環性構造の立体的な広がりを考慮した。当劾化合物合成法を一般化するために、種々の出発原料の反応性を検討したところ、βー(Nーメトキシアセチル)アミノクロトン酸エチルエステル誘導体を分子内閉環させる方法が、最も効率的であることが判明した。合成した化合物は、側鎖構造の種類別に、直鎖系(I)芳香族側鎖系(II)、多環性系(III)に大別された。それぞれの化合物群は、ラット肝ミトコンドリアやウシ心筋亜ミトコンドリアなどの生物材料を用いて、生理活性試験に供された。その結果、化合物群のIについては、予想通り、いかなる鎖長においてもNADH酸化反応の阻害が起らなかったが、IIやIIIにおいては構造要素をうまく選択することによって強力な阻害活性が発現されることが判明した。とりわけ、比較的簡単な合成法を適用できるII群の化合物に高活性が認められたことは、NADH酸化酵素の阻害剤受容部における疎水性部分の広がりを探るための、すぐれた分子プローブが発見できたことを意味している。また、IIIのように固定化された脂溶性部を含む化合物により基本的な活性が引き起こされることから、「ロテノン類似の環構造を有するピエリシジン型化合物は、両者の特性を兼ね備えた活性を発現し得る」という当初の予想が極めて妥当であることが再認識された。今後はIIやIII型の化合物をさらに系統的に合成し、ミトコンドリアを用いたインビトロ活性の向上を狙うと同時に、殺虫活性などの活性発現条件などについても検討を加えたいと考えている。
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