豚の受精卵移植技術の改良や研究にとって成熟卵子や受精卵を安定的かつ経済的に入手できることが重要である。本研究ではこれらの研究材料を未成熟雌豚(肉豚)から得る条件をまず検討した。その結果、PMSG1250iu投与後72時間目にhCG500iuを投与する方法が過排卵誘起処理として適していることが分った。排卵はhCG投与後40〜41時間目に開始する個体が多く従って、体外受精に用いる体内成熟卵子は排卵予定時間の直前に卵巣から回収でき、またhCG後約30時間目に人工授精を1回実施することにより受精卵が得られることが分った。しかし、本過排卵処理に対する卵巣の反応性には季節差のあることを考慮して行う必要がある。 一方、体外受精と卵子の体外成熟が可能となれば未成熟卵胞卵子を用いて多数の受精卵を得ることが可能となる。そこでまず、体内成熟卵子で体外受精を試み、得られた受精卵の発生能を試べた。体外受精卵をのべ4頭に移植した結果、2細胞期卵17個を移植された1頭が正常な子豚を4頭分娩した。しかし、体外成熟卵子は光学顕微鏡レベルでの形態が体内成熟卵と差はないが、体外受精においては精子侵入遅延や多精子受精の起こる確率は体外成熟卵子でかなり高く、多くの問題点が示唆された。そこで両者の差を電子顕微鏡レベルで追究した。その結果、顕著な差違は認められなかったが、ミトコンドリアでは若干の差があるようで、今後この点をさらに追究すると共に、生化学的な面からも検討する必要性が示唆された。その他、受精卵移植の実用化を図る上で最も重要な技術の一つである受精卵の低温保存についても検討を加えた。しかし、受精卵の実験モデルとして用いた卵胞卵子と桑実〜胚盤胞期の受精卵は10℃以下に冷却後すべて変性した。体外受精卵の発生能向上、卵子の体外成熟および受精卵の低温保存等の項目が重要な検討事項として残された。
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