本研究は放牧草地と牛群を植物群落〜放牧牛群〜土壌生物の三者で構成される生態システムとして把え、牧草と牛群の両者が相互に影響を及ぼしつつ生長する過程を数式で表現し、かつ現地の物質・エネルギー循環量を併せて実測することで、植物と牛の生長を再現、予測しようとする。 乳牛の子牛が放牧されている草地で、植物体の単位土地面積あたり乾重、窒素量および子牛の体重増加、生長の季節的な推移を実測した。植物体は時期別に地上部を葉身、茎・葉鞘・稈、立枯、リターの各部分に別け、また可食部、株部、採食部、残食部にそれぞれを区分した。地下部も季節別に採取した。これらをエネルギー量に換算し、植物体全体および各部分のエネルギー量の時期別推移を求めて数式モデルの係数とした。一方、放牧牛については、牧草採食量からエネルギー摂取量を求め、テレメトリーによる心拍数と放牧行動型ごとの時間とからエネルギー消費量を推定し、牛群のエネルギー収支を時期別に求めた。 子牛の増体実測値は、5月>7月>8月>10月の順に鈍化し、春季には1kg前後で高かったが夏季以降低くなった。この増体をエネルギー換算し、これに運動に伴うエネルギー消費量を加えた値は、摂取した飼料から家畜体内で代謝されたエネルギー量に当たる。この値と、草地の草量変化から推定した採食量に基づいて求められたエネルギー摂取量とは、春季、夏季はほぼ一致したが、10月中旬は後者が著しく高くなった。増体が夏季以降低下する原因は、家畜の代謝の側面と牧草の消化率や供給量など植物側の両方の要因が交絡したものと考えられる。この点を解析するため、数学モデルによるシミュレーションを行なおうとして数式群を組み立てている。春季・夏季については、放牧育成子牛の生長はほぼ予測可能との見通しを得た。
|